アルバム『Abbey Road』は、発売は『Let It
Be』より先だが、レコーディングされた時期はこちらのほうが遅いため、実質的にはビートルズ最後のアルバムと言える。この時期になると、4人そろってレコーディングする機会はますます減ったのだが、完成度が高く、全体の構成もすばらしい作品に仕上がっている。特にB面のバラードのメドレーは素晴しい。ビートルズのアルバムでは最高の売上を記録し、イギリスでは史上もっとも売れたアルバムである。
このロック史上最高傑作のアルバムを、本日は我らがパロッツがどのように再現してくれるのか非常に楽しみだ。
オープニングは、両A面でシングルカットされた『Come Together』と『Something』の2曲。『Something』は、ジョージの作品では初めてシングルA面となった曲で、数あるビートルズナンバーの中で最も多くカバーされている名作。(アルバム『アンソロジー3』では、ジョージのギター弾き語りのデモ・ヴァージョンを聞くことができる。) この2曲はパロッツが通常ステージでも多く演奏している曲で、いつも通り細かい部分まで見事に再現。
2曲の演奏が終わったところで、バンビーノさんより第一声。
バンビーノさん「こんばんは。アビーロード特集が始まりました。今日はアビーロード特集ですから、次に何が出てくるかみんな全部知ってるわけですね。」
ゴードンさん「お客さん、曲順、知ってるわけですね。」
バ「僕ら、(曲順)貼ってるのにね、ここにね(笑)。2曲、『Come
Together』と『Something』 をお送りしました。まずね1回目のこのステージはA面の6曲をこんな感じでしゃべりを入れながらいきますからね。」
ゴ「A面は何分くらいですか?レコードでは?」
バ「20分くらいですか?『I Want You』だけで8分くらいありますから、もしかしたら、A面の方が長いかもしれませんね。」
ゴ「みなさん、アビーロードをいやっていうほど聴いてきたと思います。」
バ「ステージ前にもかけてた。かけすぎ、聞きすぎですよね。これから演るっていうのにね(笑)。次は、曲紹介なしで2曲いきましょうね。ポールの曲、2曲。」
『Maxwell’s Silver Hummer』は、ポールの作品でボーカルもポール。ポールは、当時としては珍しかったムーグ・シンセサイザーを演奏したり、凝りに凝って3日間かけてレコーディングを行った。
続けてポールのナンバー、『Oh! Darling』。今日もゴードンさんの張りのある高音シャウトが会場を魅了する。ポール自身はこの曲のレコーディングに際し、1週間ほど毎日スタジオに入って、わざと歌いこんだ声にしたテイクを採用したそうだ。
チャッピーさん「アビーロードの特集は久しぶりですね。」
バ「(以前)一回やりましたね。」
チ「B面メドレーが聞き物ですね。A面もいい曲ばっかりですね。『Oh!Darling』、カッコいいですね。いつ聞いてもいいですね。」
ゴ「普段は体力を考えて、曲順を考えますが、そんなこと聞いてくれませんからね。連続で歌ったりしてね。」
チ「これ、逆だったらもっと大変ですね。 ということで、A面あっという間に終わってしまいますね。よく考えたら6曲しかない。」
ゴ「(会場のアンコールの声に)それ、どういう意味なの?もう1回やれってこと(笑)?」
チ「もう終わりだということ?まだあとA面2曲あります。次は、リンゴのナンバーです、『Octopus's Garden』。その後、『I Want You』。いいですね、ヘビーでね。イベントの時しか登場しません。普段やると、嫌がられます(笑)。長すぎますし、変なところで切れるんですよね。」
バ「ポチッと切れる。でもこれ、伸ばそうと思えばいくらでも伸ばせる(笑)。」
チ「今日はまだ6曲しかないということで、ビートルズのサイズの約3倍くらい、25分くらいやろうかな(笑)。」
『Octopus's Garden』は、リンゴがサルディニア島でのバカンス中に、ヨットの船長から聞いたタコの話をヒントに書き上げたナンバー。 A面最後のナンバーは、『I Want You』。ジョンがヨーコのことを歌った曲で、こちらでも、最新のムーグ・シンセサイザーがオーバー・ダビングして使用されている。フミヤさんはその音の再現のため、専用のキーボードを準備していた。ジョンとジョージによるギターも、厚いサウンドにするために、何度も重ね録りされている。チャッピーさんはジョンになりきり、懇親のシャウトを聞かせてくれた。
チャッピーさん「2回目のステージ、B面のステージが始まります。今やCDの時代ですから、
B面はありませんが、当時はB面は7曲目『Here
Comes The Sun』から。(B面の)メドレーの中で、ジョージは歌っていないんですね、ほとんど。その分でしょうね、A面B面、素晴らしいナンバーが入っています。
では、イベント後半を。B面が始まったら終わらないという感じで、、、」
バ「え?終わらないですか?」
チ「いえいえ、、、(笑)」
ゴ「止まらない、ですね。」
チ「すみませんでしたっ(笑)!」
バ「すぐヒトのあげ足とりますからね。」
チ「ちょっと間違えたら大変ですよね。最後までお話なしで通してしまうという、私にとって最も苦しい。今回しゃべるのはこれで終わりです。途中で話さないと呼吸できなくなる(笑)。」
ゴ「まぐろみたいですね。」
バンビーノさんの静かなギターイントロと共に『Here
Comes The Sun』が始まる。ジョージはこの曲を、エリック・クラプトンの家の庭を散歩しながら書いたそうだ。バンビーノさんとチャッピーさんの軽やかなギターと、3声のさわやかなハーモニーから、おだやかな陽射しが感じられるようだ。
続いて、フミヤさんがキーボードでBecauseの神聖なイントロの音色を忠実に再現する。
チャッピーさん、ゴードンさん、バンビーノさんによる3声のコーラスが美しく響き渡る。本家ビートルズは、何度もテイク、オーバー・ダビングを重ねこの作品を仕上げたのだが、パロッツは本番一発ライブ演奏で、荘厳に再現してみせた。
再び、フミヤさんの優しいピアノの音色から始まる『You
Never Give Me Your Money』。 アビーロードのB面にメドレーを入れるという案が具体的にいつ生まれたのかは不明だが、アップルの深刻化する経営の混乱を題材としたポールのこの曲は、メドレーの一部として使うのが明かな作風を持つ。
『You Never Give Me Your Money』がフェイド・アウトし、虫の鳴き声をバックにバンビーノさんのギターイントロが、タイミングも見事に次の曲、『Sun
King』へと移っていく。 ここから3曲はジョンのナンバーが続く。
『Sun King』の歌詞は、ジョンがいつもと違う感じを出そうと「カンド・パラ・ムーチョ」と歌いだしたところに、スペイン語が少しわかるポールが適当なスペイン語をつなぎ合わせていった。
『Mean Mister Musterd』は、ジョンが、新聞で読んだ、5ポンド札を隠した男の記事を題材にインド滞在中に書いた曲。次の『Polythene
Pam』につなげるために、元の歌詞では「彼の妹のシャーリー」だったのを「彼の妹のパン」に変えている。
曲調はがらりと変わって、チャッピーさんの力強いギターストロークで『Polythene
Pam』へ。 ジョン独特の歌い方と早口の歌詞でジョンを再現。
『Polythene Pam』とは、ジョンが実際に友人宅で出会った、ポリシーン(ポリエチレン)でできたように見える服をまとっていた女性を題材に書いた曲。
ジョージの特徴あるギターソロを挟んで、次のポールの曲、『She
Came In Through The Bathroom Window』へと進む。きらびやかなギター・フレーズとポールのヴォーカルの掛け合いが印象的だ。
ここでメドレーは一旦途切れ、『Golden Slumbers』からメドレー後半の幕が開く。
『Golden Slumbers』は、ポールがトーマス・デッカーの子守唄の歌詞がが気に入り、楽譜が読めない(!)ポールが、自らメロディをつけた曲。安らかな正に子守唄のようなメロディから、ゴードンさんが力強く歌い上げるヴォーカルへと展開していく。途中、『You
Never Give Me Your Money』のフレーズが挿入されている。
メドレーはフミヤさんの迫力あるキーボードでのホーンの音色で『Carry
That Weight』へ。ポールは、当時の周りのあまりにヘビーな状況を、この曲で表現している。
『The End』の聞きどころは、まずはドラム・ソロだ。リンゴも他のメンバーも、延々とソロをとるドラマーが好きではなく、この曲でも最初はドラムソロをやりたがらなかったリンゴを、他のメンバーが説き伏せて、「ソロらしきもの」をやることになった。今夜はアミーゴさんがダイナミックにソロをきめて、会場は本日一番の盛り上がりに。そして、ポール、ジョージ、ジョンの順のそれぞれに特徴のあるギターソロ。チャッピーさん、バンビーノさんの二人が音色やタッチもそっくりに再現する。
クライマックスは「そして最後に、受ける愛は与える愛と同じになる・・・」とシェイクスピアを真似た二行連句が締めくくる。
最高潮に盛り上がって演奏を終えたパロッツは、会場の興奮冷めやらぬ中、最後の曲、『Her
Majesty』がバックに流れる中、風のようにステージから消えて行った。
『Her Majesty』をどう聞かせてくれるのかということは、誰もが興味を持っていたポイントだろう。
『Her Majesty』は元々、カットされるはずだった曲で、いわばオマケ的なナンバー。テープの最後に貼り付けてあったのをポールが聴いて、「面白い」とアルバムの最後に入れることになった。
『The End』で最高潮に盛り上がって演奏を終え、余韻を残したままさっとステージを後にするというのも、なかなかパロッツらしい粋な演出ではなかったのではないだろうか。
普段のステージで演奏している曲は言うまでもないが、特にB面のメドレー部分は、楽器の音色やコーラス等細部にこだわり、それぞれのナンバーもメドレーの流れもそのままに忠実に再現されていた。非常に聞き応えのあるステージに会場は大満足だった。